■■ 夏、散歩。 ■■





「手、繋いでも良い?」
「えっ」

暑い夏の夕方。
夕方なのに陽射しが強くて。
それなのに宮田さんは散歩に行くと言って聞かないから着いて行く事にした。
折角二人で散歩するんだから。

「手、繋ごうよ」
「でも…」
「良いから」

半ば強引に宮田さんの手を握ったら、そっぽを向かれてしまった。

「恥ずかしいんだけど…」
「そう?俺は嬉しいけど」

しれっと笑顔で言えば、宮田さんは唇を尖らせて俯いた。
繋いだ手から伝わる宮田さんの体温が心地良い。

「熱いね」
「当たり前だよ。夏だもん」
「いや、そうじゃなくて」
「?」

解らない、と瞳で問い掛ける宮田さんに、繋いだ手を唇に寄せて指先にキス。

「な、何…?」
「宮田さんの手が、熱い」

ぱっと頬が赤く染まって。
繋いでた手から力が抜かれた。

「やっぱり離して…ッ」
「やだ」

体ごと離れようとする宮田さんを、繋いだ手に力を入れて引き寄せる。

「絶ッ対離さない」
「ちょっと、子供じゃないんだか…」
「嫌だ」
「もぅ、暑いし恥ずかしいし嫌だってば!」

一生懸命抗議する宮田さんに、わざと悲しそうな声を出す。

「俺の事、嫌い…?」

宮田さんが押しに弱いのは、俺だけが知ってる宮田さんのカオ。

「嫌、じゃ…なぃ…」

すぐ拗ねるのは、俺だけが知ってる宮田さんのテレカクシ。

「じゃあ、離さなくても良いよね」
「…熱いんでしょ、僕の手」
「うん」
「じゃあ離せば良いじゃん…」
「宮田さんと手繋いでたいから、我慢する」

ちょっと恥ずかしい台詞かと思ったけど、ストレートな方が宮田さんには良いのも知ってる。

「…恥ずかし…」
「じゃ、もっと恥ずかしい事したげようか」
「何ッん…」

期待してない返事が終わる前に不意打ちを喰らわせてみた。

「今、キス…ッ、なん…」

驚きと恥ずかしさで目を白黒させてる可愛い宮田さんの、唇に人差し指を押し当てる。

「宮田さん、唇も熱い」

俺はにっこり、宮田さんは茹蛸。

「ッもう知らない!」
「わっ!ちょっ、宮田さんっ!」

急に早足で歩き出されて、繋いだままの手を引っ張られる。
俺の制止の言葉なんてまるで聴こえないみたいに無視して。

「鈴村君だって…」
「え?」
「熱かったよ、唇!」
「!」

不意打ちされて、俺は赤面するしか出来なくて。
掌から伝わる熱をただただ握り締めた。





▲end