■■ 夏、夕立。 ■■
ついてない。
苦労して取り付けた久し振りの逢瀬なのに。
「雨…」
しかもかなり強い。
当然傘なんて持ってなくて、ビルの軒下で雨宿りをする羽目になって。
ひょっとして先に待ち合わせ場所に着いてるだろうか…。
早く、逢いたい。
いっそこの土砂降りの中走って行ってしまおうか。
そんな考えを思い付いた次の瞬間には、雨の中に駆け出していた。
迷っている時間すら惜しかった。
暑さに火照っていた肌に雨の冷たさが心地良い位で。
あの人に焦がれて熱を帯びた頭には丁度良いかもしれない。
逢いたくて堪らない。
無我夢中で待ち合わせ場所に着いたら、建物の影で雨を凌いでいる貴方がいた。
俯いて、伏し目がちで、何処か憂いすら感じる横顔。
「宮田さんッ!」
「ぇ…?」
振り向いたその顔は驚き一色だった。
「福…山君…ちょっ、びしょ濡れだよ!」
早くこっちに、と手招きをされ、雨の当たらない影に入った。
「もう…どうしたの、こんな雨の中走って来て…!」
「っ早く…宮田さんに、逢いたかっ…た…」
乱れた息を整えながら、バッグからタオルを出そうとした。
「待って」
手首に触れられ、やんわりと制止された。
「どうせバッグの中もびしょ濡れでしょ。タオル、貸してあげる」
そう言って宮田さんは自らのバッグからタオルを出して、俺の顔に手を伸ばした。
「もぅ…びっしょりだよ」
ぶつぶつ文句を言いながら、少し乱暴に俺の頭をタオルで拭う宮田さんの手首を掴む。
「な、何…?」
「…逢いたかった」
宮田さんは、鳩が豆鉄砲喰らったみたいに瞳を丸くした。
「な、何…急に改まって…」
抱き締めようと腕を伸ばしたら、びくり、と躯が跳ねた。
「冷た…ッ」
「え?」
「福山君、凄い冷たいよ…!早く何処か行こう…ッ」
傘を開こうとする宮田さんを無理矢理抱き締めた。
「福山く…ッ」
「逢いたかっ…た…」
壊れたCDみたいに同じ事しか言えなくて。
「福山くん…冷たい…」
何て自分らしくない。
こんなにも惨めに貴方を欲している。
「キス…しても良いですか…」
「え……ッん…!」
貴方が、欲しい。
「んン……福山くんっ!外なのに…」
「…済みません」
「……唇だって…冷たいよ」
早く行こう、と促されて腕を引かれた。
小さい傘に二人仲良く納まって。
横の貴方は林檎みたいに真っ赤な顔をしていて。
久し振りのキスは、雨の味がした。
▲end