■■ 夏、熱帯夜。 ■■





真っ暗闇で目が覚めた。
前も後ろも右も左も解らない暗く黒い闇の中。
何処までが自分で何処からが闇なのかの境界線すらも解らなくて。
それより何より貴方が居ない事が恐くて、音さえ飲み込む闇にひたすら貴方の名前を叫んだ。

刹那、遠くで何かが白く小さく光って。
貴方の声がした。


気が付いたらいつもの天井を見上げながらいつものベッドで寝ていた。
ぐっしょりと寝汗をかいていて、背中が気持ち悪くて堪らず身体を起こす。

「変な夢…」

呟いてからふと、隣で寝てる筈の宮田さんを見ると、ぱっちり開かれた目とばっちり目が合った。

「ッみ、みやっ…いつから起きてたんですかっ!?」
「櫻井くんが起きるずーっと前」

驚いて口をぱくぱくさせる俺に、小さな口から甘い声で追い撃ちがかかる。

「櫻井くん、寝言で何回も何回も僕の事呼ぶんだもん…目、覚めちゃった」

にっこりと微笑う宮田さんに思わず苦笑いをしてしまう。
あの顔は、何か悪戯を思い付いた時の顔。

「ねえ、どんな夢見てたの?」

とても嬉しそうに宮田さんは此方を伺う。
顔には『好奇心』の文字がでかでかと現れている。

「な…何でも無いです…」
「あれだけ僕の名前呼んでおいて何でも無い事無いでしょ」

教えて、とまるで小動物がじゃれつく様に腰に抱き付いて来る宮田さんに逃げ場を失う。

「…真っ暗闇の夢です」
「何それ?」
「ずーっと真っ暗なんですよ」
「へぇ…。それで何で僕の事呼ぶの?」
「…宮田さんが居なかったから」
「え?」
「手の届く所にいてくれないと…駄目なんです」
「櫻井くん…意外と寂しがり屋さん」
「そうですね…」

ちゅ、と額に口付けを落とすと、宮田さんは困った様に微笑った。

「手、繋いであげる」
「…手ですか」
「変な夢見ても手繋いでたら安心でしょ」

微笑みと一緒に差し伸ばされた手をそっと握る。
伝わる体温は、俺に安心を与えてくれるから。
真夏の熱帯夜なのにべったりくっついて横になって。
いつまでも微笑ってる宮田さんに口付けた。
貴方は、暗闇を照らす俺の太陽だから。

「これから見る夢には、僕が出て来ると良いね」





▲end