■■ lunch time ■■
「賢雄さんお弁当食べちゃいました?」
ふと楽屋で話し掛けて来た柔らかな声。
「いや、まだだけど…何で?」
理由を問えば、上目遣いで此方を伺いながら、少し不安そうに。
「あの、僕もまだなんですけど、一緒しても良いですか?」
可愛らしい申し出を断る筈も無くて、「良いよ」と微笑むと宮田君はぱっと顔を明るくした。
「あっ!賢雄さんと僕、お弁当一緒ですね」
宮田君の言葉で手元を見比べると、確かに同じ具が四角い箱を彩っている。
「本当だ」
「残念。違うお弁当だったらおかず交換とか出来たのに」
口を尖らせる仕草が可愛くて。
「欲しいおかずがあればあげよ」
「えっでも…」
「交換とかじゃなくて」
微笑って弁当箱を差し出すと、最初は迷っていた宮田君も「じゃあ…頂きますね」と箸を伸ばした。
何気ない話をしながら二人で弁当を食べていてふと、宮田君を見やると、唇の端にソースの様な物がついていて。
「宮田君、此処、何かついてる」
「え?」
自分の口の端を指で触るが、宮田君が拭ったのは反対側で。
「こっちだよ」
左手を宮田君の頬に添え、素早く顔を近づけて唇の端を舐め取る。
「けっ…賢雄さ…?!」
「取れたよ」
「っ…もぅ…」
頬を赤らめて明後日の方向を向いてしまうのも初で可愛らしい。
「期待した?」
「え?何がですか?」
先刻の今だと言うのに、宮田君の視線は此方を真っ直ぐ捕らえる。
「キス」
意地悪く微笑って一言言うと、宮田君は赤らんだ頬を更に赤くして。
「なっ別に期待なんかしてないですよっ」
一生懸命になって否定されると少し寂しいけど。
「早くお弁当食べちゃいましょっ!ねっ!」
真っ赤な顔で箸を持つ宮田君も可愛くて、悪くない。
「ホントは…」
箸を少し進めた所で、宮田君が小さく呟く。
「ちょっとだけ…」
「?」
「期待…しちゃいました…」
予想外の可愛い台詞にドキリとする。
「宮田君」
「はい」
振り返って此方を見詰める視線。
それはいつだって俺を真っ直ぐ捕らえて離さない。
今度はゆっくりと顔を近づける。
意図を理解したのか、宮田君もそっと瞳を閉じる。
触れ合った唇はとても柔らかくて。
この一瞬を永遠に願った。
▲end