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『遅くなるかも』

無理矢理付き合いを入れられてしまって、どうしても抜けられそうになくて。

『待ってますから』

微笑って俺を送り出す幸季に後ろ髪引かれながらも朝、別れて。
いざ帰って来て、玄関のドアを目の前にすると力が出ない。

「23時38分…」

10日になる迄後30分。
怒ってる、だろうなぁ…。
不安と、申し訳無さと、腑甲斐無さを抱えたまま、意を決してドアを開ける。

「幸季…」
「森…川…さん…」

玄関先で壁を背もたれにちょこんと座り込み、此方を見上げる幸季と、目が合った。

「ッどうし…」
「おかえりなさい」

慌てて駆け寄ると笑顔で一言、そう言われた。

「良かった、間に合って…」
「幸季…」
「間に合わなかったら、どんな仕返ししてやろうって、そればっかり、考えちゃっ…て…」

涙ぐむ幸季を、力強く抱き締める。

「おめでとう、幸季」
「…っ有難う…御座います…」

そっと口付ける。
償いと、祝福を込めて、何度も、何度も。
今腕の中に幸季が居る喜びと、幸せと。

「っん…森川さ……は、ぁ…苦しぃ…」
「あ、ああ…済まない」
「でももう少しだけ…このままで良いです…」





▲end