■■ うつる体温 ■■
さりげなく。
腕を掴んで、引き寄せてみた。
本人も覚えてない程些細な出来事は、俺の中では大きく膨れ上がっていて。
「意外と……冷たい」
頬杖をつき、自分の掌を見詰めながらぽつりと呟く。
「何が?」
「ぅおッ!!っこ、こーきさん…」
いきなり後ろから声をかけられて吃驚していると、相変わらずのマイペースでまた質問される。
「何が冷たいの?」
きょとんと俺を見詰める真っ直ぐな眼差しに顔が熱くなる。
「う、腕…?」
「何で疑問形なの」
くすくすと笑う幸季さんに思わず苦笑い。
今の今まで俺の脳内を占めていた人が突然目の前に現れて驚かない訳がない。
「そんなに冷たい?」
「ぇ…ッ!?」
言うが早いか、幸季さんは俺の腕をぐわしと掴んだ。
「えー、森田君、全然冷たくないよ?」
「ぃや、その…」
幸季さんの手は冷たくて。
触れられた箇所が熱くなっていくのを鮮明に感じる。
「森田君、あったかいね」
「そ、そうですか」
「うん。…気持ち良ぃ」
「きッ!?」
「や、ちょっ、別に変な意味じゃないよ!」
「わっ解ってますって!」
二人して真っ赤な顔して大慌てして、何だか可笑しな空気に。
「…あの、森田君」
「…何ですか」
少し俯いて、言い出し辛そうに此方を見上げる幸季さんにドキドキする。
「腕…も一回触っても良い…?」
その仕草にその殺し文句。
断れる筈もなくて。
「良いですよ」
「ほんとっ?」
瞳をキラキラさせながら俺の腕にそっと触れて。
「へへ…やっぱりあったかい」
満面の笑顔で俺の腕に触れる幸季さんはやっぱり、冷たい。
▲end