■■ 後ろからギュウ ■■





「浪川君の浮気者。」
「済みません」
「絶対許さないもん。」
「…済みません」
「駄目。」

宮田さんは怒りっぱなし拗ねっぱなし、俺は謝りっぱなし。
かなりのご立腹具合に、俺はどうする事も出来なくて。

「…嫌い」
「えっ」
「浪川君なんか大っ嫌い」
「そん…」

宮田さんは、嘘はつかない。
そんな宮田さんの口から発せられたのは、余りにも残酷な一言。

「嘘、ですよね…?」

向けられた背中に問い掛けても、沈黙だけが突き刺さる。
いつもみたいに微笑って、いつもみたいに…

「宮田さん…ッ」

耳鳴りみたいに宮田さんの声が響く。
『大嫌い』だなんて、そんな冷たい言葉は聴きたくない。

「俺が…悪かったです…から…」

何でも良い、甘く甘いとろける様な愛を囁いて欲しい。
そっと、短くて長い宮田さんの後ろ姿迄の距離を縮める様に腕を伸ばす。
抱き締めた躯は細くて、か弱くて。
そんな躯には余りに似つかわしくない芯の強い心。
その心を傷付けてしまったのだと、酷い後悔にばかり襲われる。

「…放して」
「嫌です」
「放してよ」
「嫌…です…」

白い首筋に唇を当てて、自分の言葉を自分で塞ぐ。

「浪川…君…」

宮田さんの声は麻酔みたいで。
じわじわと感覚が薄らいでいくのが心地良い。

「…どうしたら…許して貰えますか…」

やっと動いた口から出たのは、情けなくも許しを請う言葉。

「…もう、良いよ」
「ぇ…?」

盛大な溜息の後には、また意外な一言。
顔は見えないけれど言葉の端に苦笑いが滲んでるのが解る。

「反省、したでしょ?」
「ッ…しました」

ほっとして、宮田さんを抱き締める手に力がこもる。

「浪川君、放して」
「嫌です」

微笑混じりの抵抗に、涙混じりに反抗する。

「絶対、放しません」





▲end