■■ 愛しさの臨界点 ■■
始めは見てるだけで良い。
その内見てるだけじゃ満足出来なくて、話してみたくなる。
話していたら触れたくなる。
触れたら手に入れたくなる。
手に入れたら独占したくなる。
「はぁ…」
盛大な溜息をついてしまい、横にいた幸季が心配そうに此方を覗き込んだ。
「大丈夫ですか?」
「ん、ああ…少し酔ったみたいだ」
「えー珍しい!…気分悪いですか?」
「そうだな…少し風に当たって来るよ」
内輪な飲み会の席。
俺の隣で誰彼構わず極上の笑顔を振り撒く幸季に、それこそ気分を悪くしていた。
「はぁ…」
今夜になって数え切れない程ついた溜息。
「森川さん」
柔らかな声に呼ばれて振り返る。
「具合どうですか?」
「ああ。大分良くなったな」
お前が俺を心配してわざわざ抜けて来てくれたから。
「…余り他の奴等に笑いかけないでくれ」
「え?」
「その…心配と言うか…不安と言うか…」
「嫉妬、ですか?」
幸季は悪戯っぽく笑った。
「お前には…俺だけの物でいて欲しい…」
「そんなの」
腕に擦り寄って来た幸季を強く抱き締める。
「最初から、僕は森川さんの物なのに…」
嗚呼。
愛しさに臨界点はない。
際限無く、愛してやまない。
「愛してる」
愛の言葉の後に深く口付けた。
それは誰にも見えない、俺だけの所有の証。
▲end