■■ かわいい人 ■■





宮田さんは、結構確信犯な所があると思う。
俺が断れないのを解ってて『おねだり』をしたりする。

「ねぇ、松風君…」

潤んだ瞳で俺を見上げて、甘い声で俺を撫でる。

「お願い…っ」

宮田さんの背景が何だか輝いて見えるのは俺が相当キテる証拠だろうか。

「松風君…」
「あーもうっ!解りましたからっ!」

空気に堪えられなくなった俺が、その空気を吹き飛ばそうと声を出す。
と、宮田さんはぱっと笑顔になって「やったー!」と手を叩いた。

「…ショートケーキ2つ下さい」
「2つ?松風君太っ腹ぁ」
「1個は俺が食べるんですよッ」

宮田さんがケーキを食べたいと言ったから買って帰る筈が、いつの間にか俺が奢る羽目になっていた。
俺はどうも宮田さんのおねだりには弱いらしい。


「ん〜…甘ぁい…っ」

ダイニングに2人向かい合って座って、目の前で美味そうにケーキを頬張る宮田さんを見て笑みが零れる。

「松風君食べないの?」
「あ、いや…」

まさか貴方に見惚れてましたなんて言えない。

「じゃ、奢ってくれたお礼!」

言うが早いか、宮田さんは素早く俺の前の皿を自分に寄せ、フォークを立てた。

「あーんっ」
「え…ッ!?」
「もぅ、口開けてったら」

そして宮田さんは口を尖らせ俺を上目遣いで見る。
嗚呼、また宮田さんの背景がキラキラして来た…。
顔が上気するのが自分でも解る。

「ぁ…あー…」
「はいっあーんっ」

語尾にハートでも飛んでいそうな程可愛らしい声と共に、俺の口にケーキが運ばれた。
じわりと口の中に広がる甘いクリームに、目の前の人が重なる。

「美味しい?」

満面の笑顔で宮田さんが小首を傾げる。

「…はい」

にこりと微笑むと、宮田さんは嬉しそうにまたフォークを運んだ。

宮田さんは確信犯だけど、それ以上にもっと可愛くて可愛くて。
かわいい人。





▲end