■■ くるくる  ■■





いつからだろう。
可愛い後輩は大切な存在になっていた。

「三木さん」

俺の名前を呼びながら後ろについて来る姿はまるで雛鳥の様で。

「三木さん」

その笑顔にいつしか癒やしを感じる様になっていた。
恋とか愛とか、そんな感情とは少し違う気がしたけれど。
それが抱いてはならない感情だと言う事は解っていた。


いつもの様にスタジオへ向かう。
奴の居るスタジオ。

「三木さんっ!お早う御座います」
「ああ、お早う」

嗚呼。
またその笑顔で俺は奈落と言う名の花園へ堕ちる。
押し殺して。
隠し通して。
気付かれてはいけない。
解られてはいけない。

「OA観たんですけど、『桃矢』と『雪兎』、ちゃんと合ってましたね!」
「前回はお前、抜きだったからな」

…そう。
前回は居なかった。
残念に思う反面、ほっとした部分もあった。
ぼろが出たらどうしようかと不安に駆られるからだ。
ポーカーフェイスの下で、俺はどうしようもない衝動を抑えている。
その所為で一度幸季に

「三木さんの意地悪!」

と冗談半分で言われた事があった。
仕方無いじゃないか。
触れたらどうにかなってしまいそうだ。

「三木さん、この後予定ありますか?」
「いや、特には」
「じゃあファミレスでも一緒に行きませんか?」

期待に満ちた瞳が可愛らしい。
意地悪したくなる。

「お前とかぁ〜?」
「僕じゃ不満ですか…?」
「はは、冗談だよ」

小さな頭をくしゃくしゃ、と乱暴に撫でる。

「行ってやっても良いぞ」
「ホントですかっ?じゃあこの後、一緒に行きましょうねっ」

心底嬉しそうにする仕草に心くすぐられる。
可愛くて仕方が無い。
伸ばしかけた手を引っ込める。
深入りしてはいけない。
幸季の為に。


頼んだメニューが運ばれて来て、幸季は嬉しそうに「いただきます」と手を合わせた。
向かい合って座るファミレス。
こんな風に二人で飯を食うのも久し振りだった。

「んー、美味しいっ。三木さんは?」
「…普通?」
「もう…身も蓋もないんだから…」

呆れた表情も何処か楽しそうで。
抱いてはならない淡い期待を抱かせる。

「…今日は奢ってやるよ」
「え、良いんですか!?」
「特別な。」

少しだけ、甘えても良いだろうか。
お前がくれるその笑顔に。






▲end