■■ 月‐FugitifPrincesse‐ ■■
還リタイ。
「…実家ですか?」
「うーん…それもある、けど……違う」
「じゃあ、何処に?」
「…解らない、けど……唯、時々、無性に…還りたくなるんだ」
窓の外の月を見詰めながら、貴方は惚けた様に喋る。
まるで、月に焦がれた様に。
「宮田さん、宇宙人だったりしてね」
「えー?」
「『母星に帰りたい』って、思ってんのかもよ」
「違うよー」
けらけらと、愉しそうに、笑ってくれた。
でも月を見詰めて、カエリタイなんて言って。
「…かぐや姫みたい」
「何が?」
「宮田さんが」
「何それ。変なの」
宮田さんはくすりと微笑って、腕の中に潜り込んで来た。
「僕は、無理難題吹っ掛かけたりしないのに」
「そうだね」
「僕は、ずっと鈴村君の傍にいるのに」
「そう…だね…」
『還リタイ』
「勝手に…月に帰っちゃったりしたら、赦さないよ」
「解った」
抱き締める腕に、力を込める。
逃がさない様に。
逃げ出さない様に。
閉じ籠めてしまえたら良いのに。
「ねえ、俺の事、好きって言って」
「…どうしたの、急に」
「ねえ…言ってよ…」
放さないから。
「好きだよ…大好き……」
離れないでいて。
▲end