■■ 人魚の謳 ■■
「宮田君、コーヒー淹れようか」
「砂糖は…」
「覚えてるよ」
俺が知ってる彼は、ほんの一欠片。
散歩が好き。
ラーメンが好き。
甘い物が好き。
和菓子が好き。
犬が好き。
健康グッズが好き。
納豆は嫌い。
「…諏訪部君、今日、調子悪いの?」
「え、何で?」
「何か、いつもと違う」
他人の変化には敏感。
「そんな事、無いよ」
「そう…?」
自分への好意には鈍感。
「はい、コーヒー」
「有難う……わぁ、砂糖ぴったり!」
『嬉しそうに笑う宮田君が、見たいから』
「諏訪部君、フットサルやってるんでしょ?」
「うん」
「よっちんとかたっつんとか、皆諏訪部君のキーパーは凄いって言ってた」
『他の人の話はしないで』
「宮田君もやってみたら?」
「僕は絶対無理だよ!体力無いもん…。じれっ隊の直ちゃんの振り付けでも大変なのに」
『俺と二人でいるのに他の人の名前なんか聞きたくない』
「じゃあ今度、見に来たら良い」
「そう…だね。それなら良いよ」
『そうやって可愛く笑う君が好きだよ』
俺の言葉は、泡になって消えるだけ。
▲end