■■ 恋のよろこび ■■





公園をはしゃいで歩く貴方の後ろ姿を追いながら歩く。
満開のツツジの毒々しい迄の赫にあてられて、後ろ向きな考えが脳味噌を掠める。

『貴方はいつ迄、俺の横に居てくれるんだろう』

貴方の気紛れに振り回されていて、気が付いたら俺の世界の中心は貴方になっていた。
貴方が居なけりゃ、俺の世界は動かないガラクタ。

「…櫻井君」

ツツジの中、振り返り微笑む貴方の笑顔が何よりも大切なのは、俺のエゴかもしれない。

「疲れた?」
「いえ。花に…目を遣っていたから、足が遅れて」

すたすたと、颯爽と歩み寄られて、直ぐ様俺達の距離は縮まって。

 ぽふ…ん

肩に、宮田さんの額があたる。
恥ずかしそうに、俺のシャツの裾を掴まれて。

「宮田さん…?」
「……僕…嫌な感じ…」
「だ、大丈夫ですか?具合い…」
「違う…」

シャツの裾を握る手に、力が入る。

「違くて…僕……ツツジに……嫉妬した」
「…え?」
「櫻井君……僕よりツツジ…見てたから…」

嗚呼。
俺はとんでもない幸せ者かもしれない。

「じゃあ…俺と一緒ですね」
「え?」

驚きと不安に揺れる瞳が此方を見上げている。

「俺は……宮田さんを喜ばせてあげられるツツジに…嫉妬してました」
「櫻井君…が…?」

子供染みた、独占欲。
花と俺を天秤にかけて、俺の方が重くあれば良い、と。

「僕…、僕だけが舞い上がって…櫻井君は呆れてるんだと…思っ…」
「逆。真逆ですよ」

俺が、貴方に依存し過ぎているんだから。

「宮田さんが俺から離れていかない様に…必死なんです」
「離れて…く…?」

先程よりも驚いた瞳。

「何で?僕、櫻井君が……僕の事、嫌いになられちゃうんじゃないか、って…僕の方が不安、いっぱいなのに…」
「いや、それは俺が思ってた事で…」

二人共、思わず口をつぐむ。

「…僕達、存外似た者同士なのかもしれないね」
「そう、ですね」

でもきっと、貴方より俺の方が想いが強過ぎるから。
壊さない様に。
離さない様に。
大事にするから。
ずっとずっと、傍に居て。
電話。
メール。
逢瀬。
何でも…するから…。


「…そろそろ帰ろうか」

そう言って差し出された左手に、右手を重ねる。
冷たい、手。

貴方がもっと、俺に夢中になってくれたら、良いのに。





▲end