■■ 上手な猫の手懐け方。 ■■





「井上さぁん…」
「何?」
「も…もう、外しても…」
「駄ァ目。罰ゲームなんだから」

カーペットにへたり込む猫と押し問答。
正確に言うと、猫耳・猫尻尾を付けた宮田君と押し問答。

「最低でも、今晩中は付けてて貰わないと」
「そっそんなに!?」
「あと、宮田君」

自分はソファに腰掛け、脚を組んで宮田君を見下ろす。

「な行は、にゃにゅにょ、にしないと」
「えぇっ!?そ、それは…」
「罰ゲーム。」
「う゛っ……で、でもっ、今日はこれから三木さんが台本の読み合せをしに来てくれる約束が…」
「じゃあ、三木君にも可愛がって貰ったら?」
「えぇっ!?」

慌てて立ち上がろうとした宮田君に追い打ち。

「移動は四つん這いでね」
「ね、ね、猫…そこ迄、猫…」
「やってね」

極上の笑みを浮かべて、とどめをさす。

「え、ぇ……に、にゃぅ…」
「良く出来ました」

目尻に涙を溜めながら小首を傾げつつ此方を上目遣いで見上げる、猫耳・猫尻尾を付けた宮田君は、本当に、可愛い。

「あ、あの…」
「うーん、可愛いなぁ…」
「ぇ?」
「おいで…。」

猫君に向かって右手を差し伸べる。

「井上さん…」

渋々…いや、怖ず怖ずと言った処か、猫君は丁寧に両手足で此方に寄って来た。
何だかんだ言いつつ宮田君は、素直と言うか律儀と言うか…。
右手が届く位置迄寄らせると、小さな頭をそっと撫でる。

「井上さん…?」

頬を撫で、顎に手をやり、少し強引に上を、此方を向かせる。
顔を徐々に近付けて。

「ぃ、井上…さ…」

 ピンポーン…

余りのタイミングの良さに思わず動きが止まる。

「い、井上さんっお客さん!きっと三木さんです!」

切羽詰まって膝の上に両手乗せられても…。

「出たら良いじゃない」
「出れな…にゃぃです、こんな恰好してたら…!」

羞恥に頬を染める猫君はまた可愛がり甲斐があるのだが。

「じゃ、僕が出るよ?」
「お願いします…」

僕は構わないけれど、宮田君の家の玄関のドアを僕が開ける事に関して何か引っ掛からないのだろうか、あの天然猫君は。

 ガチャ

「幸季、出るのが遅……あれ、和彦さん?」
「宮田君なら中にいるよ」
「あ、はぁ…」

案の定、三木君は不思議そうな顔で俺を見詰めた。
到って想定の範囲内。

「…ぅおッ!何て恰好してんだお前!」

此処迄の大声は、想定の範囲外。
あの三木君が、ねぇ…。
リビングに戻ると、ぺたっと座り込む猫君の横に、所謂ヤンキー座りをする三木君。

「あ、あのっ、罰ゲームにゃんですっ!好きでやってる訳じゃ…」
「罰ゲーム…ねぇ。お前、賭事は弱いからやるな、っていつも言ってるだろ?」
「済みませ…あぅっ!」

三木君はそれ以上は喋らずに、猫君にデコピンをした。

「和彦さんも…人が悪い」
「何かな?」
「何でも無いッス」

そう、此処ですべきは三木君との口喧嘩ではなくて。

「にゃぅ…?」

この可愛い猫君を手懐ける事なんだから。
先刻迄座っていたソファに戻り、猫君の頭を撫でる。

「にゃ、や、やめて下さい…恥ずかしぃ…」

ドサッと派手な音を立てて、三木君が鞄を置いた。

「…和彦さん。コレ、俺も触って良いんですよね?」
「勿論、ご自由に」
「ぇ?」
「猫君は大人しく可愛がって貰いなよ」
「え?」

きょろきょろと、僕と三木君を交互に見詰めながら猫君はわたわたしている。
この猫君は困った顔が本当に可愛いから、困らせる様な事ばかりしてしまう。

「み、三木さん…ッ」

不安に揺れる瞳で此方を見上げる幸季の顎を、人差し指の背で撫でる。

「あ、あの…」

困った顔で俺のシャツの裾を握り締める幸季に、不覚にも愛着を憶える。

「お前、あんま違和感無いのな」
「な…にゃにが、ですか?」
「猫。」
「そんにゃっ!失礼ですにゃ!」

ぷぅ、と頬を膨らませて俺の胸を叩く。
…律儀に猫言葉で。

「可愛いでしょ?」

ソファにゆったり掛けながら、此方を見下ろす和彦さんに、溜息が出る。

「…良い趣味」
「我ながら、ね」

にっこりと愉しそうに笑う和彦さんは、ソファに座ったまま幸季の顔を引き寄せ、頬にキスをした。

「な、にゃ、にゃ…ッ!?」
「可愛かったから」

幸季の頬を撫で、首筋に手をやる和彦さんにムッとした。
…少しだけ。
飽く迄少しだけ。
和彦さんの方に向かっている幸季の首筋に吸い付く。

「にぁッ!み、三木さッ」
「…所有の印だ」
「しょ…て、ぼっ僕三木さんの…ペ、ペットじゃにゃいです!」
「じゃあ、和彦さんのものか?」
「え…?」

他人の手で、弄ばれている幸季を見るのは、無性に腹立たしかった。

「三木さ…ん…」

ゆらり、躰が動く。

「狡いなぁ。僕も混ぜて」

絶妙なタイミングでストップが入る。
和彦さんはソファから下り、幸季のシャツの釦を丁寧に一つ一つ外しながら、笑顔で話す。
幸季も観念したのか、激しい抵抗はしなかった。

「宮田君、色白だねぇ」
「ぃ、井上さんはウインドサーフィンにゃさるから…健康的な肌色…」
「うん、どうしても日焼けしちゃうからね」
「…幸季ッ」
「はっはい!」

嫉妬した。
二人の遣り取りに。

「こっち向いて」
「ぇ、は、はぃ……んっ!ぅ…!」

唐突な、深い口付け。
顎のラインに手を添え、逃げられない様に抑え付ける。

「ッ…ん……ぅ、…は…ン!」

逃げる舌を絡め取り、唾液を滴らせ、屠り、嬲る。

「んぅ…!」

苦しげに頬を染める幸季は、和彦さんの手で半裸にされていた。
本物の猫を可愛がる様に、和彦さんが幸季の素肌の腹や胸を撫でる。

「ふ、ぅ…ッ!んン!…ッ」

幸季は、明らかに、感じている。

「…ンぅ……ふ、はぁっ!…はぁ…は…」
「猫君は感度が良好…だね」
「…余り遊ばないで下さいよ」
「まあ…程々にね」

…この人は、食えない。

「も、二人共やめて下さぃ…にゃぅ…」

怯えと不安に揺れる瞳からは一筋の涙。
両側を大の男に固められ、力で勝てない事は解っているらしい。
うーん、泣き顔も可愛い。

「もうちょっと、かな」
「未だやるんですかぁ!?」
「折角似合ってるんだから、ね」

片手で頬を撫で、片手で猫耳をつつく。

「うにゃ……ひぁっ!?」

突然の高い声に何かと思うと、三木君が猫君の素肌を撫で回していた。

「みっ三木さ…や、め…ッひにゃ!」

猫君のイイ処を三木君の手が弄る度に、猫君は可愛い嬌声を上げる。

「やぅ…ぃぁ……にゃんッ!」
「喘ぎ声迄猫なのか」
「だ、だっ…て……にゃぅ!」

三木君もなかなかやる。

「にゃ、や、やめ…!」
「やめない」
「じゃあ僕は下を弄ろうかな」

三木君を猫君の背もたれにし、猫君の脚を此方に向ける。

「にゃ、ぃ、井上さ…!」

ベルトを外し、釦を外し、ファスナーを下ろし、トランクスごと一気にズボンを下ろす。

「ひにゃあッ!?」
「お前はこっち」

三木君が猫君の可愛いピンクの乳首を抓る。

「にゃッ!」

幸季を後ろから抱き竦め、胸をいじくる。
猫耳が少し邪魔だが、啼き声は悪くない。

「三木さ…ッんにゃ!」
「…ちゃんと啼けよ、幸季」
「だ、だっ…て……井上さんが…ぅにゃあ!」

三木さんが、幸季自身を舐め上げた。

「ん、大きくなって来た」

手で幸季自身を抜きながら、内腿や脚の付け根にキスマークを残している。

「にゃ、い、井上さ…にゃうッ…やめ、て……にゃあ…ん!」
「猫君は、脚も敏感だね」

俺が胸を、井上さんが幸季自身を。
幸季は完全に、二人から弄ばれる形になっている。

「はにゃ……うぁ…」
「幸季、こっち向け」
「み、きさ……ん!む……ぅ、ン…!」

唇を奪う。
無理な体勢から、強引に、乱暴に。
舌を差し込んで、掻き乱す。

「んっ……んぅ!ぅ、は…ッ!にゃ…んン…!」

唇の端から、幸季が飲み下せなかった二人の唾液が顎を伝う。

「猫君は淫乱だね。こんなに濡らして」

くちゅくちゅと、音を立てながら井上さんは幸季自身を弄んでいる。

「ふ…ッんぅ!んっ…」
「甘い、ね」

幸季自身の先端を舐めた井上さんは、濡れた手で幸季の脚を撫で回している。

「三木君、猫君の口、貸してくれるかな」
「……」
「んっ……ぅ、ん…」

三木君は此方を一瞥して、猫君の口を解放した。

「ふはっ!…は、ぁ…はぁ…はぁ……んぁ!や、にゃあ!」

三木君は、猫君の躰の後ろから手を伸ばし、猫君自身を両手でいじり始めた。

「んっ、にゃ…!」
「猫君」
「にゃ…?」

右手を猫君の口の前に差し出す。

「猫君ので汚れちゃったから、綺麗に舐めて?」
「え……ぁ…」

少し戸惑い、躊躇いの表情を見せたが、怖ず怖ずと赤い舌が差し出された。

 ぴちゃ…

指の表、裏、間から、時には指をくわえながら、丁寧に僕の手を舐めていく。

「ひぁッ!?」

突然上がった嬌声に何かと思えば、三木君が猫尻尾で猫君自身をいじっていた。

「これ…好いのか?」
「にゃ、違…ぅにゃッ!」
「好いんだな」

猫尻尾で撫でられる度に、躰をびくびくとさせる半裸の猫。
実に、淫猥で堪らない。

「にゃ、あ…み、三木さ…っ……も、僕…ッにゃんっ!」

指を舐める余裕も無いらしく、僕の手を両手で握り、頭を振って絶頂が近い事を伝えて来る。

「ッもう、…にゃっ、だ、ダ…メ…れす…ッ!」

三木君の手の動きが早くなる。
僕は右手を猫君に握られているから、左手で猫君の躰を撫で回した。
胸を重点的に。

「ひぁ…ッ!だ、めぇ……お願…やめ、ッにゃうぁ!」

啼き声は段々高くなって来て。

「ぁ、あ…やっ、ダメ…駄目ぇ…にゃあぁ…っ!」

 どくん…っ

白い喉が仰け反って。
綺麗な弧を描いて、猫君の腹に真っ白な欲望は吐き出された。

「はぁ、ぁ……もぅ、らめ…れすぅ……」
「幸季?」
「……」
「寝ちゃったみたいだね」
「…和彦さん」
「お叱りなら後で受けるよ。取り敢えずは、後始末かな」

くったりと、三木君の腕の中で気を失っている宮田君を軽く眺めてから、タオルを濡らしに洗面所へ行く。
三木君は、宮田君を大事そうに抱えていた。


「…ベッドに寝かせたんだね」
「このまま寝かせますから」
「はい、タオル。拭いてあげなよ」

濡れタオルを渡すと、三木君は丁寧に宮田君の白い躰を拭いた。

「耳と尻尾は外したんだね」
「寝るのに邪魔だから」
「似合ってたでしょ?」

此方を牽制する様に、鋭い眼光。

「もう、コレであんま遊ばないで下さい」
「肝に命じておくよ」

それから僕は宮田君の部屋を後にした。

後日、宮田君は隠してあった猫耳尻尾を彼氏君に見付けられて一悶着有ったとか無かったとか。

折角可愛い玩具なんだから、遊んであげなくちゃ損だと思うのに。





▲end