■■ ブラックダリア ■■
『成功者』
人から見ればそう見えるらしい。
声優と言う不安定な職でも、収入は安定して来た。
人から見たら俺は成功者で、何でも欲しいものは手に入りそうに見えるらしい。
でも前から、どんなに欲しくても手に入れられないものがある。
「あ、鈴村君!久し振りだねー」
無邪気に、俺に微笑い掛ける人。
「一緒の現場なんて、いつ振りかなぁ」
手に入らない、人。
「宮田さん」
「なぁに、鈴村君」
「……何でもない」
「何それー!」
壊せるものなら壊してしまいたい。
曖昧なバランス、距離感、未来さえも。
「あはは、教えなーい」
「もう!」
この温ま湯に浸かってる様な今の状況が、心地好いから。
「えいっ!」
「ぅおっ!?ちょ、飛び道具とか卑怯……飴?」
「あげる、それ」
楽しそうに微笑う宮田さんが、好きだから。
「ありがと」
笑顔も、溜息も、温もりも涙も。
全部手に入れたいのに。
「鼻のど飴だから、花粉症にも効くよ」
「また健康グッズー?」
「またって何さ!」
思い通りにならない。
もどかしい。
これが、恋。
「鈴村君っ」
壊したいのに、壊せない。
▲end