■■ 情熱のプライド ■■





彼は侮れないと思う。
演技には定評があるし、実際上手いと思う。
付き合いも長いし、ある程度、彼の性格も解っているつもりだ。

「関君関君!ほら、ワインボトル!」
「ビールに対抗して?」
「はい!負けないですよー」
「俺だって負けんぞ!」

二人、周りの人達と一緒に他愛無い事で笑い合う。
今回は、雑誌のインタビューと写真撮影。

 彼は いつも 笑っている 。

「宮田君、元気だね」
「そうかなぁ?」
「見てて癒される感じ」
「え、僕、癒し系?」
「…違うかも」
「もう!何それ」

喜怒哀楽。
彼には全てがある気がしていた。
それなのに、見落としていた。
『哀』の表情(カオ)を。

「…ッ!関く……これは…ぁの…」

白い頬を伝う水滴。
人知れず流していた涙に偶然遭遇し、戸惑った。

「ぁ…俺、外そうか」
「違ッ……居て…此処に、居て…欲しい…」

服の袖を弱々しく捕まれ、消え入りそうな声で、彼は呟いた。
見た事の無い、哀しそうな彼だった。

「……理由、聞かないんだね…」
「いや、宮田君が話してくれる迄待つ」
「関君らしい…」

哀しげに、彼は、笑った。

「いつもああやって独りで泣いてるの?」
「…うん。大の大人が人前でなんて、泣けないじゃん…」
「じゃあ……無理して、笑ってるの?」
「…時々。」

宮田君の家に招かれた。
彼は、独りになりたくないと言った。
俺は、彼を独りにしたくなかった。
菓子とお茶の乗ったテーブルを挟んで見る彼は、相変わらず哀しそうで。
それでも、笑っている。

「…その、俺の前で迄…無理して笑う事、無いよ」
「ぇ…?」
「俺の前でくらい、泣いて、構わない」
「でも、あの…」
「今だって宮田君、泣きそうな顔してる」

は、と瞳が開かれて、宮田君は俯いて。
暫くして、小さな小さな嗚咽が聞こえた。
ごめんなさい、ごめんなさい…と、何回も謝っていた。

「今迄、我慢して来たんだね」

彼が俺にだけ見せた『哀』に、優越感にも似た何かを感じた。
席を立ち、宮田君の座る椅子の横に立ち膝になる。
顔を手で覆い、ひたすら涙する宮田君の小さな頭を撫でる。

「関…く…ッ……ごめ…なさ…っ」
「大丈夫だから」

宮田君の細い肩を抱いた。
腕の中に、収めた。
頭の何処かで、次の展開を期待していたのかもしれない。

「関君……っごめん、なさぃ…」
「良いよ、気にしなくて」

肩口に顔を埋め暫く泣いた後、宮田君は心底申し訳無さそうな顔をした。

「ぁの…関君…もう、良いよ…?」
「何が?」
「あの…放して…貰って良い…」
「未だ良いよ」
「や、でも…」
「このままで…いさせて…くれる?」
「ぇ…?」

宮田君の体温が、心地好くて。
離れたくなくて。

「ごめんね」
「ぇ…」
「気付いて、あげられなかった」
「でも、それは……っん」

いたたまれなくて。
申し訳無くて。
宮田君を解っている気でいた自分が情けなくて。
抱き締める腕に力を込めた。

「関君…」
「これからは、ちゃんと言ってね」

そっと見詰めて、頬を撫でて涙を拭う。

「泣きたくなったら、俺んトコ来て。ドーンて、受け止めるから!」
「うん…」
「…良し、笑った!」
「え…?」
「今宮田君、ちゃんと楽しそうに笑ったよ」

俺の腕の中で、俺のシャツを握り、にこりと微笑った。

「ねえ…関君……あの、キス、して良い…?」
「…此処で聞くかなぁ?」
「あ、だ、駄目なら…良いっ…」
「ううん、そうじゃなくて」

微笑って、キスをした。

「…んっ……ぅ…」

薄い唇の隙間に舌を差し込み、舌を絡める。
右手は宮田君の頬に、左手は宮田君の腰に。
宮田君の手は俺のシャツを掴んで、必死に息を整えようとしている。

「…ん……ッは、ぁ……関…君…」
「宮田君…ごめん」
「ッえ…?」
「止まらないかもしれない」
「ぇ、あ……ぅん…」
「良いの?」
「…うん…良い…」

少し俯いて、照れた顔を隠そうとするのが可愛くて。
額に口付けを落とした。

「ぁ…」
「宮田君、顔、真っ赤」
「ッ!関君がおでこにキスとかするから…ッ!」
「そっか」

照れる宮田君は可愛い。
可愛いけれど…。
きっと本人は無自覚なんだろうけど、何処となく艶が増す。
白い肌の火照り。

「宮田君…」
「関く…ん…」

見詰め合って、気恥ずかしくなって、またキスをした。

「んっ!…ふ、ぁ…せ、き…くん……ッ!」

苦しげに呼ばれる名前に胸の芯が熱くなる。

「ぁ…関…く……ぅ、ん…ン…」

口の端を伝う唾液は、甘くすら感じる。
椅子に座ったままの宮田君の脚の間に立ち膝で入り込んで、躰を密着させる。

「ん……ッあ!」

頬に添えていた手を、宮田君の首筋を撫でながら胸へと移動させる。
宮田君は俺の首に腕を回しているけど、弄ると直ぐ逃げ腰になるから、左手は腰に回したまま。

「せ、関君…ッ!」
「止めなくても良いって、言ったのは宮田君だよ?」

アオリの構図で宮田君の顔を見上げる。
シャツの襟から覗く白い喉元や首筋が堪らなく煽情的で。

「…キスマーク、付けたら怒る?」
「見える所は駄目!」
「見えない所なら良いんだね」
「そ、そういう訳じゃ…」

答えを全部聞く前に、肩口に近い部分を吸う。

「ぁ…う……」
「良し!くっきりはっきり!」
「え!?」
「大丈夫、服着たら解らないよ」
「…じゃあ、関君も首…出して…」

吸血鬼に血を吸われる様な体勢。

「んー……っ」
「どう?」
「多分付いた…と思う…」
「ん。じゃあ良いね」

宮田君のシャツの前釦を全部外してしまう。

「ひぁ…ッ」

ぺろり、と舐めると、敏感に甘い声が漏れた。

「宮田君は胸も感じるんだね」
「そん…っあぁ!」

桜色の乳首は、勃っていた。
背中を撫でまわし、胸を突き出す様な体勢にさせる。

「やんっ…!ぁ…ッあ!」

脇腹から胸、鎖骨、喉へと、肌蹴たシャツを除けて肌を舐め上げる。

「ん…はぁ……ッ」

甘い吐息に誘われる様に、胸の飾りに吸い付く。
ぴちゃり…とわざと音を立て、羞恥心を煽る。

「ン!…関…君…ッ」
「あに?」

肌に舌をあてたまま、宮田君の顔を見上げ喋る。

「僕、ばっかり…ッ…で、悪ぃ…気が……んっ!」

俺が宮田君を弄るのに夢中で気付かなかった。
宮田君の乳首を指で抓りながら、宮田君を見詰める。
耳迄真っ赤な顔をして、瞳を潤ませている。

「じゃあ、宮田君がイッたら、俺の事も弄って?」
「ぇ…」

カチャカチャ音を立てながら、椅子に座っている宮田君のズボンのベルトを外す。

「ぁ、や、あの…っ」
「良いから」

ジッパーを下ろす音はやけに鮮明に耳に届いて。

「ほら。コッチ先に楽にしてあげなきゃ」
「関く…!」

解放されたそれは、僅かに兆し始めていて。

「ひぁっ!」

先端を指の腹で撫でると、一段と高い嬌声が上がった。

「先っぽ、弱いんだ?」
「違ッ…あ!ゃ……んぁ…ッ!」
「宮田君、嘘はバレちゃうよ」
「せ、関君の意地悪…っ!」
「今更ぁ」

したり顔で笑って、宮田君自身を口に含む。

「ひぁッ!…せ、き…君……ぁン!」

宮田君は俺の髪の毛、頭を掴んで、俺を自身に押し当てる様に手を置いた。
多分、無自覚で。

「…ん……っ」
「ひゃっ…ぁ……あ!」

竿全体を口に含み、吸い上げる様に唇を持ち上げる。
裏筋を舐め上げながら、手で先端を弄る。

「んはっ……ッ…ぁ、あぅ!」

じゅぶじゅぶと、わざと唾液を滴らせ大袈裟に音を立てる。

「…せ、きく…っ!ゃめ……んっ…は、やぁ…」

完全に勃ちきったそれからは、愛液が出始めていて。
宮田君の味。
俺の唾液と混じって、卑猥な味がするのに、甘い味がする気さえする。

「や…ッ、関く…ん……ぅあ、はぁ…んッ……もう…」

絶頂が近い事を、荒い息、甘い息混じりに必死に訴えて来る。
手と口を休める事は無く、寧ろ更に攻め立てる。

「や、関君っ……ぁ、だめぇ、もう…ッ…イ…っちゃ…」

返事をする代わりに、スパートをかける様に丁寧に、執拗に、愛撫をする。

「ぁ…関君……せき…くん…ッ!…はぅ…あ、ぁあ!」

どくん、と宮田君自身が脈打って、俺の口の中に苦くて甘い味が広がった。

「はぁ…、ん……は…」

宮田君は、俺の肩に手を置き、乱れた息を直している。

「大丈夫?」
「…だぃ…じょーぶ…っ」
「駄目そうだね」

少し苦笑いして、頬にキスをする。

「でもっ、関君…未だ…イッてなぃ…」
「でも宮田君、今、一杯一杯でしょ?」
「平気…ッ!」

言うが早いか宮田君は、勢い良く立ち上がったかと思うと、ゆらりとバランスを崩して俺の方に倒れて来た。
勿論、しっかり腕の中にキャッチしたが代償として見事な迄に良い音を立ててフローリングの床に後頭部をぶつけた。

「だっ大丈夫!?」
「何とか…ね」
「ごめんねっごめ…」

俺の上で慌てる宮田君の唇に人差し指をあてる。
きょとん、と小首を傾げる宮田君に笑顔で一言。

「?」
「『ごめん』より『有難う』が良い」

ふと、緊張していた面持ちが弛んで、宮田君は微笑った。

「…有難う」

その笑顔がまた可愛くて。

「ねえ宮田君、未だ余裕ある?」
「む!あるよぅ!」
「じゃあ……俺の、咥えてくれる?」
「………」

固まってしまった宮田君に思わず“しまった”と思ったが。

「良いよ…」

固まってしまったのは今度は俺の方で。

「良いの?」
「ん…」

下を向いているから良く見えないが、間違いなく照れてる。

「関君、椅子、座って…?」

俺の上から退きながら、宮田君は肌蹴たシャツを掴んでいた。
言われるがまま、促されるままに先刻迄宮田君が座っていた椅子に座らされる。

「ぁの…僕、そんな上手じゃないよ…?」

俺の脚の間から見上げて来るは、潤んだ瞳が不安に揺れていて可愛くて。

「宮田君がしてくれるだけで、充分」
「そう…?」

その言葉を表すかの様に、俺自身はかなり質量を増していて。

「…関君…おっきぃ…」

竿を両手で支え、先端に口付けを落とされた。

「んっ…」

裏筋を舐め上げられ、手で玉を弄ばれる。
次の瞬間、生温かい感触に包まれる。

「んぅ……ン…っ…ぅ」

少し苦しそうに、舌を使いながら口を上下させる宮田君を見下ろす。
乱れたシャツの間から、先刻付けたキスマークが目に入る。

「んむ…ッ!……ぅ、ん…」

宮田君が、目尻に涙を溜めながら、上目遣いで此方を見上げる。

「はぁ……ヤバ…ッ宮田君…!」
「ふぁひ?」
「ちょ、口に入れたまんま喋らなッ……んっ」

上目遣いや、咥えたまま喋られたり、刺激が多過ぎる。

「イふ?」
「っ…そろそろ…!」

スパートをかけられて、じゅぶじゅぶとピストンが早くなって。

「宮田君…口…放さないと…っ!」
「んっ…良いぉ……口に、らして…」
「いや…駄目だ……っ!」

出す瞬間、宮田君の髪を掴んで口を放した。

「ッ!……関君!」
「ご、ごめ…」

所謂、顔射。

「顔に出したぁ!」
「だって、飲ませたくなくて、さ…」

むぅ、と不満気な顔をして、視線を逸らされて。

「…関君のなら…飲めるのに……」

その恰好、その姿勢でその台詞は反則だろ。

「宮田君…誘ってる?」
「ふぇ?」
「いや、何でもない……顔、洗って来なよ」
「うん」

背中を見詰めながら、宮田君の先程の顔を思い出す。
白濁にまみれた、綺麗な顔。

「ヤバいなー…」

宮田君の涙を見たくないのが一番だったのに。
次頼られたら、何もしない自信が無い。
乱れた着衣を直しながら、そんな事を考えていた。

「関くーん!髪にも飛んでるー!」

洗面所から呼ぶ声に、慌てて駆け付ける。
やっぱり、宮田君は、侮れない。





▲end