■■ 花は枯れて また咲く ■■





「お疲れ様でしたー!」

盛大な打ち上げは、大勢で迎えた早めの忘年会になった。

「宮田さん、大丈夫ですか?」
「まだまだ飲むのぉっ!」
「…酔ってますね?」
「酔ってなぃ!」
「…はい。」

真っ赤な顔で、人にぴったり肩を寄せるこの人なんて、酒に酔ってる時以外見た事無いけど。

「もうそろそろお開きですよ」
「うんー…」

前は誰が介抱してたか。
酔い易いって解ってて皆飲ませるんだから。

「きぃやーぁん…眠ぃ…」
「飲み過ぎです」
「だって!…楽しかったんだもん…ライブ…」

俯いて口を尖らせる仕草には、怒る気すら削がれてしまう。
赤らんだ肌。

「うち、泊まりますか?」
「ぇ、悪いよ…」
「宮田さんを独りで帰す方が心配です」
「ぅん…」

回らない頭で、俺の家に泊まる事を承諾した、この人は。

「…警戒心とか、無いんですか?」
「何が?」
「いや、何でも無いです」

そうなったらなったで、悪くない。
甘い蜜を滴らせる無垢な花を手折るのは容易く、そして快感だから。

「行きましょうか」
「ん。」

酔いに火照る手を握り、道を歩く俺は、狼なんだろう。


未だ足元がフラついている宮田さんに肩を貸しながら、ソファに座らせる。

「水持って来ますから、待ってて下さい」
「んー…」

虚ろな返事を背に、コップに水道水を注ぐ。
何を考える事も無い。
酔った先輩を介抱するだけなのだから。

「宮田さん、水」
「ありがと…」

コップを手渡し、横に座る。

「もう、飲み過ぎたら駄目だって最初に言ったじゃないですか」
「ごめん…」

言葉の端々がはっきりして来た。
酔いも醒めて来たのだろうか。

「あんまり心配、かけないで下さいね」
「うん…」

余りにも申し訳無さそうな顔をするから、いつも赦してしまう。
コップを両手で持ったまま、宮田さんはぽつりと話した。

「…あのね、ライブの時の谷山君が…凄く恰好良くて、ね……はしゃいじゃった…」

酔いか、照れか、頬は赤かった。

「駄目だね、もう年なんだから、お酒なんて……っ」

気が付いたら、唇を奪っていた。
花に、触れた瞬間、だった。

「谷山…君…?」

怯えが浮かぶ瞳に、これ以上無い程の優しい笑顔を向けた。

「たに…ッ!……んぅ…!」

今度は深く、舌を絡め取って、官能的に。
逃げられない様に細い躰を押し倒して、細腕を力強く掴んだ。
見下ろした、怯えに揺らぐ瞳に切なさを覚える。
普段なら、恍惚を憶える表情なのに。

「恐いですか…?」
「谷山…君…」
「…恰好、良かったですか?」
「ぇ?」
「歌ってる時の俺」

瞳から怯えが消え、不思議を映した。

「ぅ、うん…」
「じゃあ……エロかったですか?」
「…は?」

解らない、と言う予想通りの反応に満足して、首筋を舐める。

「ひぁッ!」

耳に唇を寄せ、そっと囁く。

「『抱かれたい』…と、思いませんでしたか…?」

宮田さんの顔はみるみるうちに真っ赤に染まって、口から答えを聴くよりも明らかだった。

「別に、思って…無ぃ…」
「嘘吐き。顔に書いてありますよ」
「か、書いて無い…ッ!」
「そうですか?」

薄い唇を舐め上げ、瞼に口付けを落とす。

「んっ…」

宮田さんの頬を舐め、また唇に移る。
開いてる部分から舌を差し込み、逃げる宮田さんの舌を絡め、舐め取り、犯す。

「は…っ…たにゃ……んッ!」

言葉を塞いで、欲望のままにひたすら屠る。
本気になれば抵抗出来る程度の束縛なのに、宮田さんは、逃げようとしなかった。

「腕…放して…」
「放したら、逃げるでしょう?」

何か言おうとした唇を唇で塞いで、片手で宮田さんの細腕を掴み、片手で白いシャツを捲り上げる。

「谷山君…ッ」
「…肌、白いですよね…」
「ひゃあっ!」

脇腹を撫で、胸の飾りに指で軽く触れる。

「乳首、立ってますよ」
「そん…っあ!」
「感じるんですか?」

桜色のそれを口に含む。
ぷっくりと膨れたそれは、少し熱く、そして甘く感じた。
歯で引っ張り、引っ掛け、甘噛みし、時々濃厚に舐め、吸い、口付ける。

「や…ぁん!……んぅ、ン…」
「口、塞がないで」

口を覆う手を、先程迄乳首をいじっていた手で押さえ付ける。

「だっ…て…ッ声、出ちゃぅ…ぁ!」

吐息混じりの言訳は、媚薬にしかならない。

「気にしなくて良いですから」

宮田さんの躰から顔を離し、瞳を見詰める。

「宮田さんの甘い声、聴かせて下さい」

宮田さんは、俯いたまま起き上がって、俺の首筋に吸い付いた。

「逃げないから…腕…放して…」

煽情的に揺らぐ瞳に、動きが思わず止まって、腕を放した。

「宮田さん…何で…」

言葉は、人差し指で制された。
悪戯な微笑と共に。

「谷山君…服、脱いで…」

真っ白いシャツのボタンを一つ一つ外しながら、宮田さんは淡々と言葉を紡ぐ。

「…どうしたの?」
「ぁ、いえ…」

言われるがままにシャツを脱ぎ、二人共裸になった。
衣擦れの音に、とても緊張して。
今迄幾度と無く、幾人ともこんな事をして来たが、こんなに胸騒ぎがするのは初めてで。
宮田さんの姿は、妖艶だった。
酒に火照る、淡い薄紅の真白い絹の肌に、見惚れた。

「ん…」

惚けていたら、キスをされた。
首に腕を絡められ、咥内で舌を絡められ、欲情した。
細腰に手を添えると、宮田さんの躰がピクリと反応した。
左手で背中を撫で、右手で腰骨をなぞる。

「ん…ぅ、ぁ……ッ…ん」

俺の手の動きにいちいち反応して、舌の動きが止まるのが可愛らしかった。
床に服を投げ出して、ソファに向かい合って座って貪欲なキスをする。
酔いさえ無ければ最高のシチュエーションなのに。

「ッ!谷山…君…っ!」

右手が双丘に伸びた所で、唇が離れ制止が入った。

「…いきなり…は、無理…だよ…」

荒い息混じりの訴えに、いつもなら有り得ない至福を感じた。
柔らかな双丘から手を放し、宮田さんの唇に人差し指と中指をあてる。

「じゃあ…舐めて下さい」

一瞬、躊躇いの表情をしたが、直ぐに怖ず怖ずと赤い舌が差し出された。
生温かい、宮田さんの体温。

「ふぁ……ン…ぅあ、ん…」

瞳を閉じて、不乱に俺の指を舐める表情は、堪らなくエロかった。

「んンッ!…あ、ぁ…!」

背中を撫でていた左手を宮田さん自身に伸ばす。
それは既に強度を持ち始めていた。

「感じてるんですか?指、舐めてるだけなのに」
「んぅ…っ!ん!…ぁあ!やめっ…ぁ…」
「サボったら駄目ですよ、ちゃんと舐めて」

宮田さん自身を扱(シゴ)きながら咥内を指で犯す。
舌を指の腹で撫で、挟み、引っ掻き、また撫でる。
宮田さんも必死に舌を絡めて指を舐めようとするが、下からの快感に口が疎かになる。

「は、ぁ…あ……ンぅ…あ!…っは…ぁン!」
「…俺のも、弄って下さいよ」
「ふは…ぁ」

宮田さんの口から指を出し、唾液だらけの手で宮田さんの手を俺自身に持っていく。
俺自身も、硬く、天を仰ぎ始めていた。

「…ね?」
「ぅ、ん…」

そっと右手が添えられ、上下に動かされる。
ぎこちなさが残る動きに、煽られる。

「指もちゃんと舐めて」
「やっ…無理ィ……っん!…ぁ、あ…ッ!あ!」

喘ぎ声は花の蜜。
甘くて、蕩けそうで。
宮田さんの瞳は完全に直情的で、本能的な快楽を求める瞳をしている。

「…じゃあ…」

喘ぎ声に消されそうな位小さく呟いて、宮田さんの細い腰を抱き上げ、膝の上に乗せる。
勿論、脚を開かせて。

「ゃ、な…何…」
「もうそろそろ、ほぐさないと」
「ぅん……っう!」

穴に唾液で濡れた中指を差し込む。

「ぁ、ぅ…ッ」
「痛いですか?」
「へぃ…きッ…」

中は、咥内と同じ様に生温かくて、キツかった。
ほぐす様にぐりゅぐりゅと指を動かす。

「ん、ぅ…あ!……ッ…え…?」

指を一度抜くと、宮田さんは間の抜けた、物足りなさそうな声を出した。

「大丈夫ですよ、指、増やすだけですから」
「べ、別に……んッ!…その…っ!」

今迄宮田さんの中に在った中指と、人差し指を舐める。
左手は、宮田さん自身を撫でまわしたまま。

「んぁッ!ぅ…」
「我慢、して下さいね」

右手と左手を器用に動かして、中の痛みを和らげる様にする。

「宮田さんの、濡れて来た」
「やぁ…っ言わなぃ…で…!」
「聴こえるでしょう?ぐちゅぐちゅ、溢れて来てる」
「んやぁ…ン………ッひぁ!あ、ゃ…そこ、駄目ッ…あ!ぁ、あ!」

宮田さんの熱い中の一点を、見付けた。

「や、ん…ッ、お願ぃ…っ!ぁ!っそこ…駄目…なの…ひぁぅ!んぁッ!ぁ、…あ!」
「でも、躰は正直みたいですね」

言葉の通り、宮田さん自身からは汁が溢れていた。
宮田さんは、目尻に涙を浮かべて、必死に吐精感に堪えていて。
その顔が余りにも艶めいていて、衝撃的で。

「…も、駄目ぇ……挿れ、て…っ!」

花が、満開に咲いて、蜜が、滴っている。
俺にも、我慢の限界はあって。
拙い手つきではあるが確かに、俺は宮田さんに俺自身を扱いて貰っていて。
その事実に、眩暈すら起こしそうで。

「宮田さん、一度、舐めて下さい…」

一度濡らさないと、挿入が辛い。
宮田さんは言われるがままに、ソファに座る俺の脚の間に顔を埋めた。
竿を喉に当たる程咥え込み、吸い上げ、先端を舌で突付き、しゃぶる。
余りにも、卑猥な、光景。

「っもう…挿れますよ…」

宮田さんに俺自身を手で支えて貰う。

「腰、落として…自分で挿れてみて…」
「ん…」

小さく頷いて、恐る恐る宮田さんは腰を落とす。

「ぅ……ん…!」

先端が、入り口に触れた。

「そのまま、挿れて…」

早く、宮田さんの中に、入りたかった。
先端が入った時、宮田さんは辛そうに眉を歪めた。

「痛いですか…?」
「ぅん…」
「焦らなくて良いですから、ゆっくり、挿れて」
「でも…谷山君、が…」
「俺は平気ですから」

俺の視線の真正面には、宮田さんの胸。

「ひぁ!な、何…っ?」
「宮田さんは挿れるのに集中して下さい」

俺は、宮田さんの躰を愛撫する。
胸の飾りを舐め、吸い、甘噛みし、舌で転がす。
左手で宮田さんの手を支え、右手で宮田さん自身を弄る。

「やっ…駄目、足、力…入らな……ッぁ!」
「ちゃんと、挿れて」

痛みに少し萎えた宮田さん自身を、指を巧みに動かして愛撫する。

「ッ…たに…っあ!ン…!」

足から力が抜けた瞬間。

「ぅあッ!…ぁ、いッ……」
「挿入りました…ね…」
「うん…」

頬を伝う涙を、舌で拭う。
瞳は潤んで、何処か遠くでも見ている様に蕩けていて。
宮田さんの中はキツく、熱くて、脈を感じる。

「宮田さん…動いて…」
「ゃ…足に…力が…入らない、の…」
「ゆっくりで良いから」

俺の肩に手を乗せ、躰を持ち上げる。

「ん…ぁ………ぃあッ!」

ある程度躰を持ち上げた所で、躰を一気に落とす。

「はぁ…ぁ……ぅ…」

宮田さんの腰を両手で抱え、宮田さんの足の微力と一緒にまた躰を持ち上げる。
俺自身が宮田さんから出そうな程躰を持ち上げた所で、手の力を抜き宮田さんの躰を落とす。

「ぃあッ!」
「…は、ぁ……大丈夫…ですか?」
「うん…」
「自分で動けますか?」
「無理ィ…」

切なげな表情に、鼓動が高鳴る。

「態勢、変えましょうか」

言うが早いか宮田さんの躰を、繋がったままソファに横たわせ、覆いかぶさる。
片脚をソファの背もたれに乗せ、脚を大きく広げさせる。

「な、ぁ…」
「俺が、動きますから」

ずぶりと勢い良く突き上げると、甘く高い嬌声があがった。

「ぃあぁッ!は、ぁ!」

先刻見付けた一点を擦る様に、奥深くに届く様に。
キツく締め付けて来るのが、気持ち良くて。
宮田さんの声に、甘ったるく蕩けてしまいそうで。
結合部分が、熱くて。

「んあっ!あッ…!ぁ!あ…ぁん!」
「宮…た…さ…!」

一心不乱に腰を振り、出し入れをし、快楽を貪った。
動く度に、宮田さん自身が俺の腹に擦れて。
気持ち良くて。

「宮田さん…俺、もう…イき…そ…」
「うぁ…ッ!や、中は…駄目…ッ」
「宮田さん…宮田さん……ッ!」

ぎりぎりの所で中から出して、宮田さんの腹に白濁を飛ばした。

「はぁ、…ぁ……」

花を、手折って、汚した。
真っ白な躰に、汚れた欲望をぶつけた。

「宮田さん…」

夢中で気付かなかったが、宮田さんも一緒に精を吐き出した様だった。

「谷山…君…」

短い呼吸を繰り返しながら、とろん…、とした瞳で虚ろに此方を捕らえている。
すると宮田さんは躰を少し起こして、腹の上の白濁を指で掬い、舐めた。
卑猥で、夢現つな光景だった。

「…今、拭きますから」
「ううん……あ、でも…シャワー、貸して…」
「あ、はい。タオル、用意しておきます」
「…一緒に入らないの?」

宮田さんはシャワーを浴びている。
俺は横で湯槽に浸かっている。
先刻迄の行為がまるで夢だったかの様に、宮田さんはいつもと変わらなく見える。
強いて言うなら、宮田さんの頬は、紅い。

「谷山君…」

俺の顔を見ないまま、宮田さんは消えそうに話した。

「どうして…僕なんか抱いたの…?」

俯いた横顔に、時めいた。

「愚問。」
「なっ…なん…!」
「好きだから、抱いたんですよ」

きょとん、と此方を向いた瞳と目が合った。

「…僕が…男の人に抱かれた事ある、って気付いたでしょ…?」
「途中から。何て言うか…慣れてたから」
「それでも…好き…?」

声は、水音に紛れていたけれど確かに、震えていた。

「好きです」
「…順番、逆だよね」
「何の?」
「告白と、セックス」
「まあ…結果が良かったから良しって事で」
「…そうだね」

花が、また、咲いた。
真っ白く、綺麗で、艶やかで、甘い花が。

「ねえ、キス…して」

甘く白い花は、優美に俺を誘う。
湯槽から躰を乗り出し、唇を合わせた。
長く、濃厚に、濃密に、とろけそうな迄に。

「宮田さんも、浸かったら?」
「うん」

向かい合わせで浴槽に浸かって、宮田さんの腕は俺の首に、俺の手は宮田さんの腰に。

「宮田さんも…素敵でしたよ、ライブ」

俺の言葉から間を置いて、宮田さんはふわりと微笑った。

「有難う」

それからまた、甘い蜜の味がするキスをした。
この花は、愛でていて厭きない。
汚しても汚しても綺麗に艶めいていて。
ずっと、この腕の中で、咲かせていきたい。

俺だけの花を、手に入れた。





▲end