■■ ミライコイユメ ■■





桜の花弁が雪に見えるとか、雪が桜の花弁に見えるなんて、絶対嘘だと思う。
雪国育ちの俺だから、そう思うのかもしれないけど。
何気無くぽつり、そう言ったら宮田さんは羨ましそうに此方を見上げた。

「そっかぁ。羽多野君は雪がいっぱい降る所で育ったんだね」
「田舎だったんですよ」
「良いなぁ。僕なんか都会育ちだから、雪とか凄い羨ましい」

きらきらと子供の様に輝く純粋な瞳に、胸が鳴った。

「雪なんてそんな良いもんじゃないですよ。雪掻きとかタイヤの履き替えとか…」
「ううん、それも含めて、羨ましいんだよ」
「そうなんですか?」
「そういうもんなんだよ」

にこりと小首を傾けて微笑った宮田さんの目は、何処か哀しそうに見えたから。
新雪に、足跡を残した、そんな気分になったから。


「…雪が降ったら、俺の実家、行きましょうか」
「え…?」
「酷くなる前なら、遊べると思いますよ」
「…ありがとう!」

東京で雪が降った日、はしゃぐ宮田さんの後ろ姿を見ていたから。
その時、雪で遊ぶ子供の頃の自分を思い出した気がした。

「長野の雪は早いですよ」
「楽しみだなー」

無邪気に微笑う宮田さんは、雪じゃなくて、桜だと思う。
雪は直ぐ汚れる。
桜は、いつ迄も、綺麗だから。
宮田さんは、綺麗過ぎるから。
俺が幾ら手を伸ばした所で、絶対に届かない。
掌から零れる花弁みたいに。






▲end