■■ サクライロノキセツ ■■
「…宮田さん」
「なぁに?」
「御機嫌ですね」
「うんっ。御機嫌だよー」
素直に返されてしまったけど。
今日の宮田さんは…そう、甘い匂いがする。
「気になる?」
「…聞いて欲しいんでしょ」
「だってぇ…。浪川君、構ってくれないから…」
俺の心を捕えたままなのに、宮田さんはまるで花から花へ移る蝶みたいに。
ひらひら、ふわり。
「…宮田さん、今日は飴、違うんですね」
「ッ…うん!」
嬉しそうにはにかむから、何だか此方まで温かい気持ちになる。
「苺なの!春っぽいでしょ」
きらきら、笑顔は花が咲いた様に鮮やかで。
「浪川君にもあげるね」
掌に落とされた、ピンク色の包装紙。
「甘いから、浪川君には合わないかなぁ」
「そう…ですか?」
「浪川君はビターな感じがする。僕の勝手なイメージだけど」
苦笑いしながら俯いてしまった顎に指を添え、そっと持ち上げる。
不思議そうに此方を見上げる宮田さんに、一瞬、口付ける。
「ぇ…」
「宮田さんの唇が、一番甘いと思いますけど」
「え、ぇ…ッ?」
困惑して、慌てて、今度は迷子の蝶だ。
ひらりひらり。
「確かに、苺味でしたよ」
くるり、背を向けてその場を去るけれど。
自分でも解る、顔は真っ赤でとてもじゃないけど宮田さんには見せられない。
宮田さんは、苺みたいに甘くて、蝶みたいに優雅で、春風みたいに温かい。
…俺がどうにかなってしまいそうだ。
▲end