■■ 卯月馬鹿 ■■





Date:2006/04/01 20:12
From:宮田幸季さん
Subject:無題
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もう、電話もメールもして来ないで。
ごめんなさい。
さようなら。
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突然のメール。
何が起きたのか解らなかった。
余りにも唐突な、決別宣言。
俺が彼に何をした?
…愛した。
そう、愛したんだ。
宮田さんを、心から、愛したんだ。
恐怖に囚われ何も出来なかった俺に、温かな手を差し伸べてくれた。
微笑って、手を繋いで、一緒に歩んでくれた。

 『大丈夫だよ』

貴方が居たから、俺は此処迄来れたのに。
今更捨てるのか、俺を。

家を飛び出して、無我夢中で走って、気が付いたら宮田さんの家の前に立っていた。
荒れた息、震える手、押せないチャイム。

 ガチャリ

「…あ」
「っ…宮田…さん…」
「杉田君…!?」
「さよなら、ってどういう事ですか!?俺は…ッ!」
「取り敢えず、入って。ね?」

掴んだ腕をやんわりと離し、宮田さんは困った様に微笑った。

「コンビニに行こうと思ってたんだよ。ジュース無いんだ」

コトリ、と湯呑みが二つ、テーブルの上に置かれた。

「…吃驚した?」
「え?」
「メール」
「…はい」

薄く白い湯気が上がる湯呑みを見詰める。
何もかも、余りにも突然過ぎて頭が追い付かない。

「今日、何日だか解る?」
「えっ?」

頬杖を付きながら苦笑混じりに、俺に謎掛けでもするかの様に問い掛ける宮田さんの表情は、不覚にも可愛かった。

「え、と…」
「正解は、4月1日!」
「?」
「エイプリルフール!」
「…あ」

忘れ去っていた。

「先刻のメールね、鈴村君が『杉田は絶対引っ掛かる!』て言うから試してみたの」
「つまり…」
「引っ掛かったー!」

満面の笑みで此方を伺う表情は、悪戯が成功した子供そのもの。

「俺…は…」
「うん、ごめんね…」

言わなくても解る程、惨めな顔をしていただろうか。

「なかなか会えなくて…寂しくて…嘘、吐いちゃった…」
「宮田さん…」
「でもまさか会いに来てくれるとは思わなかった!」

少し照れた様に笑う宮田さんに、心を鷲掴みにされる。

「本当に…吃驚したんですよ」

俺には、貴方しかいないから。

「宮田さん…俺の事……好き、ですか…?」

少しの間があった。
それから宮田さんは大輪の笑顔を咲かせた。

「大好きだよ」

その笑顔だけで、救われるのに。

「もうこんな嘘吐かないで下さいね」
「はぁい」

二人で笑って、一瞬の静が流れて、それからどちらともなくキスをした。

俺にはもう、貴方しか無いのに。





▲end