■■ 梅日和り。 ■■





紅と白の、仄かな…。

「どうしたの?」
「ぅわッ…吃驚させないで下さいよ」
「む……櫻井君がぼーっとしてたの!」

突然視界に現れた愛しい人は、春の空模様の様にころころと表情を変える。
可愛い人。

「済みません」
「…何か見てたの?」
「はい、梅を…多分梅だと思うんですけど」

窓の向こう側、塀の上。
指を指すと貴方はつられて視線を動かした。

「…あぁ、梅だねぇ」
「梅ですよね」
「そんな季節かぁ」
「みたいですね」

関心した様に口を開ける仕草はまるで子供の様に純朴で。
俺の視線は、花から宮田さんへと移る。
春の、空。

「櫻井君…?」

何の前触れも無く訪れる雷鳴にも似た衝動に駆られて、顔を近付ける。

「さく……」

暖かな日差しの様な、柔らかい、唇。

「宮田さん、梅みたいに、小さいから」
「ッ…櫻井君の背が高いんだよ…!」

小さな、花。
冬の終わり、春の始まり。
貴方はふわり、俺の唇に指をあてて悪戯に微笑う。

「櫻井君、浮かれてるでしょ?」
「…はい。春ですから」

梅の香りに誘われて、浮き足立つ、季節だから。
貴方が一緒に居る、春だから。





▲end