■■ ハルサメ ■■
「雨…」
スタジオの出口。
待ち惚け…ならぬ立ち惚け。
道理で今朝から道行く人が皆して傘持ってる訳だよ…。
折畳み傘は見事に忘れて来たしなぁ…。
誰か置き傘とかしてねぇかなぁ…。
「あれ…?」
聞き慣れた可愛い声に振り返ると、そこには傘を手にした救世主がいた。
「幸季さん!」
「どうしたの?」
「いや、傘忘れちゃって…」
俺の話を聴く幸季さんの手には、折畳み傘が一本。
「…幸季さ〜ん」
甘えた声を出すと、幸季さんは俺の意図を察して自分の傘を見やった。
「良いけど…僕の傘折畳みだから狭いよ?」
「大丈夫です!」
寧ろタナボタです!
…とは言えないから、下心を隠して幸季さんに近寄る。
「まあ…どうせ駅まで一緒だし…」
「ヨシ!」
「…そんなに濡れるの嫌だったの?」
「まあ…そんな所で」
「何それ」
くすくす微笑いながら、幸季さんは傘を開いた。
雨の中、2人、狭い傘に納まって歩き出す。
「濡れますよ」
幸季さんの手から傘を取ろうとすると、やっぱりと言うか拒否られた。
「それじゃ森田君が濡れちゃうよ!僕が持ってる」
「…じゃ、濡れない様にもっと寄って下さい」
さり気なく肩を抱いて、体温を感じる程近付けて。
「なんか…恋人みたいですね」
「えっ!?…誰が…」
「俺と幸季さんが」
「な、何で…」
「相合傘」
ぱあっとアニメみたいに頬を染める幸季さんが可愛くて可愛くて。
「…冗談ですよ」
「もう!森田君!」
真っ赤になって怒るなんて、イマドキ居ないよな…。
本当、可愛くて堪らない。
雨がもっと降れば良い…。
道がもっと長くなれば良い…。
この人が、今だけは、俺のモノになってくれるから。
▲end