■■ とくべつ、ふたつ ■■





手をじっと見詰める。

『あげるっ』

笑顔で手の平に乗せられた飴玉。
それは何気無い出来事で、ありふれた光景で。
俺にはそれがとても、苦痛だ。
俺にだけ笑って欲しい。

「どうしたの?」
「っ…俺、何か変ですか?」

突然視界に現れた想い人に、思考が一瞬固まる。
機転が効かないまま質問に質問で返してしまうと、デコピンをされて。

「痛ッ…!」
「それ、本気で言ってるの?」

でこを擦る俺の指を、そっと抑えて。

「そんなに眉間に皺寄せてるのに自覚無いなんて、相当だよ?」

自分の眉を潜めて俺の顔を不安げに見詰める瞳はゆらゆら揺れてて。
そんな顔、させたい訳じゃないのに。

「…済みません」
「あんまり周りの人に心配かけさせたらダメだよ?」
「俺は…っ!」

触れられていた指を払い、手首を掴む。

「俺…は…」

不思議そうに此方の表情を伺う瞳には、不安がちらりと見て取れる。
早まってはいけない。
この人を、傷つける事になるから。

「いえ…何でも…無いんです…」

そっと手首を掴んでいた手を放す。
喉の奥に飲み込んだのは、伝えられない一言。

『貴方さえ心配してくれたらそれで良い』

すると頬をぺちりと軽く叩かれて。
顔を上げると、苦笑する貴方と目が合って。

「無理に話せなんて言わないけど、あんまり抱え込んじゃダメだよ」
「はい…」
「…仕方無いなぁ、特別だよ?」

『特別』と言う言葉に動きが固まると、貴方は俺の手を取って、先程とは別の飴を俺に握らせた。

「ホントはね、僕の為に買った奴だから皆にはあげてないんだよ」
「え…」
「だから、特別に、内緒であげるね」

『こんなのしかあげられないけど、元気出して』と言い残して、貴方は立ち去った。
手の平には、パッケージの違う二つの飴。

…卑怯だ。

またこうやって、貴方に溺れていく。





▲end