■■ 夏の始まり ■■
「うわぁ…」
テレビが映したそれに、幸季は感嘆の声を漏らした。
「…花火大会?」
ブラウン管には、藍色の夜空に咲く色とりどりの大輪の花。
「もうそんな時期なのか」
「そんな時期なんですね」
しみじみと映像に見入っていると、幸季は俺に聴こえない様にか、小さく「良いな…」と呟いた。
「…行きたいか?」
「えっ…」
俺に聴こえていたと思わなかったのか、幸季は目を丸くして此方を見た。
「ぁの……少しだけ…」
下を向いて照れながら苦笑する幸季に口元が緩む。
「行こうか、2人で」
微笑って幸季の次の言葉を促すと、幸季も微笑って首を傾けた。
「約束ですよ?」
「ああ」
頷くと、幸季は嬉しそうに微笑った。
「いつの花火大会にします?」
「次の日休みの方が良いですよね」
「早めに行かないと混むかな」
カレンダーを眺めながらはしゃぐ姿は何だか遠足前の子供の様で微笑ましくなる。
「森川さんいつ空いてますか?」
「ん、あぁ」
「もぅ…僕の話ちゃんと聴いてました?」
口を尖らせる仕草も子供の様で可愛くて。
腕の中の無邪気な花に口付けを落とした。
▲end