■■ オマジナイ ■■





『死ぬぅ…』

滅多に来ない宮田さんからの電話がかかって来たかと思ったら、それこそ死にそうな声で助けを求められた。

「宮田さんっ!?どうしたんですかっ!?」
『も…駄目ぇ…』
「今家ですか!?ちょ、今から行きますから!」

聴き慣れない掠れた声に慌てて宮田さんの家に駆け付けて(勿論合鍵使って家に入って)
寝室に駆け込んだら、真っ赤な顔して大汗かいて寝てる宮田さんが居た。

「ぁ…櫻井君の幻覚がみえる…」
「幻覚じゃなくて本物です」

取り敢えず急いでマネージャーさんに連絡を取って、宮田さんダウンの旨を伝えた。
これで仕事の方は何とかしてくれるだろう。

「熱、有るんですか?」

改めて寝ている宮田さんと向き合う。
浅い息を繰り返し、何度も寝返りを打っている。
見るからに辛そうだ。
体温計の場所が解らなかったから、額に手を当てる。

「…やっぱり結構熱有りますね」
「ん…ぁっぃ…」
「今濡れタオル持って来ますから、待ってて下さい」

水に氷を入れ、タオルを浸す。
氷の冷たさが手に凍みて痛いが、気にしてる場合じゃない。

「宮田さん」
「ん…っ」
「何か食べましたか?薬は?」

どちらの問いにも緩く首を振る宮田さんに、冷蔵庫から軽く流せそうな物を繕い、
薬箱の場所を聞き、水道水で解熱剤を飲ませた。
薬を飲む時に躯を起こした宮田さんに

「ごめん」

と謝られた。


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薬が効いたのかすやすやと眠る宮田さんを、ダイニングからベッドの隣に持って来た椅子に腰掛けながら眺める。
未だ幾らか頬が赤く、細い髪は汗で肌に張り付いている。
時々眉をしかめ苦しそうに呻く宮田さんに、胸が痛くなる。

俺は、何もしてあげられない。

横に居て、時々目を醒ます宮田さんに具合を聞いてあげるだけ。
聞いても聞いても何も要らないの一点張りで、結局横に居る意味すら解らない。

俺は、宮田さんに必要じゃないのかも。
俺は、邪魔じゃないだろうか。

そんな考えが、頭をぐるぐるして止まらなくて、盛大な溜息をついた。

「さくら…く…」
「!…水、要りますか?」
「ううん…」
「そう、ですか」
「ぁのね、櫻井君…」
「何ですか?何か要りますか?」
「…ごめ…なさぃ…」

掠れた宮田さんの喉から振り絞られたのは、思いもしない謝罪の言葉だった。

「迷惑…かけちゃ…た、ね…」

途切れ途切れに紡がれた声は余りにも痛々しくて。
宮田さんの、額に掛かる髪を掻き上げてから、熱い頬に手を添えた。

「辛…くて、ど…しようもなか…た、時に、櫻井く…の顔が、浮か…じゃ…て…」

これはひょっとしなくてもかなり嬉しい事を言われてるんじゃなかろうか俺。

「ごめ…ね…」

宮田さんは声に涙が滲んでいる。

「謝らないで、下さい…」

宮田さんの頬が熱いのか、俺の手が熱いのかも解らない。
唯、その涙を止めて欲しい。

「俺は宮田さんに頼って貰って、凄く嬉しかったです…」

貴方が一番に思い浮かべたのが俺で良かった。

「宮田さんが、好き…だから」

我が儘も可愛いと思える位。

「あり…が…とう…」

滲んだ涙を指で拭うと、いつもの様に柔らかく微笑ってくれた。

「早く治して下さいね」
「じゃ…元気になる…おまじなぃ…して」

そう言うと宮田さんは自分のおでこを指差した。

「キス」

我が儘姫を治すおまじない…少し恥ずかしいけど。

「愛してます」

ちゅ、と小さな音を立てて唇を当てた。
やっぱり少し、熱かった。


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後日談。

宮田さんはすっかり元気になって、掠れた声も元通りになって。

「櫻井君、こっち座って」

自分の横をぽんぽんと掌で叩く宮田さん。
言われた通りに横に座ると、肩を掴まれてそのまま押し倒された。

「みっ…や、たさん…ッ!?」

驚いて見詰めた表情は、まるで悪戯っ子の様で。

「えへ。押し倒しちゃった」
「いや、あの…」

どうしたら良いか解らないので取り敢えず宮田さんの腰に手を回してみた。
と、宮田さんは俺の額に触れ、前髪をかき上げた。

「有難う、櫻井君」

宮田さんはそう言って。
ふわりと微笑ったかと思うと、俺の額にキスをした。
それはまるで、羽根が舞い落ちて来たみたいだった。

「おまじない、効いたよ?」

少し照れながら微笑う宮田さんが可愛くて、体を起こして唇にキスをした。

「…っ」
「沢山想い込めましたから」
「どんな?」

悪戯な笑顔で首を傾げる仕草から逃れる術なんて無くて。
今度は俺が照れる番。

「…言いません」
「へぇ?」

何だか照れ臭くて、くすくす笑う宮田さんを腕に力を入れて抱き締めた。

「…ありがと」





▲end