■■ 嘘と本気 ■■





性分だから、真面目にとか本気でとか余り無いんだけど。

「鳥ちゃんは恋人いるんでしょ?」

突然の宮田さんの質問に、はぐらかす様に笑顔で答える。

「居ないですよ」
「嘘だぁ!」
「本当ですって」
「絶対居ると思ってたー…」

むむ、と口を尖らせる宮田さんに、笑顔を崩さないまま逆に問う。

「宮田さんは恋人、居ないんですか?」
「居ないよー」
「じゃあ…宮田さんがなって下さいよ」
「またそんな事言って…」

ふざけて言った言葉に宮田さんも笑って返したが、俺の中には小さなしこりが残った。

──もし、冗談じゃなかったら?
──もし、宮田さんからOKが出たら?

正直…満更でもなかった。


一度気になったら中々頭から離れなくなる。
あの時ふざけて言った自分の言葉が嘘じゃなくなりそうで、想像以上に重くのしかかった。

『宮田さんがなって下さい』

まさか、こんなに重い言葉だとは思わなかったと、少し後悔した。


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「ねぇ、宮田さん」
「何?…あ、飴欲しい?」

話し掛けると、ずいっと手を突き出された。
掌にはピンクや水色の包装がされたカラフルな飴。

「いや、いいです…。それより昨日メールしたんですけど」
「えっホント!?」

宮田さんは驚いた表情でポケットから自分の携帯を取り出す。
…返信がなかったのは気付いてなかったからか。

「中々返事が来ないから嫌われてるのかと思いましたよ」
「違ッ…そんな訳無い…」
「じゃあ、好きですか…?」

宮田さんの言葉を遮る様に問う。
どんな答えを返して来るかと変な期待をしていると、宮田さんはきょとんとした表情から、ふと微笑んで短く言った。

「好きだよ」

無邪気な満面の笑みが心に刺さる。
チクリとした痛みと、それ以上に高鳴る心臓に少しの困惑を覚える。
長い間忘れていた、胸の疼き。

「じゃあ、俺と付き合いましょうよ」
「またそういう冗談…」
「冗談じゃ、なかったら?」
「ぇ…?」
「本気で、俺と…付き合って下さい」

いつに無い真剣な表情の俺に、宮田さんは戸惑いの色を隠せないまま、小さな口を開いた。

「僕は…。僕はきっと、鳥ちゃんの思ってる様な人間じゃないよ…」

宮田さんは俯いて、柔らかな声でぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

「じゃあ俺も、きっと宮田さんが思ってる程悪でもないですよ?」
「でもっ…」

諭す様な俺の言葉に、宮田さんは反論でもしようとしたのか顔をあげたが、小さな語尾を俺が掻き消す。

「好きな人…いるんですか」
「ぇ…いや、そういう訳じゃ…」

一つ呼吸して、宮田さんはまた口を開いた。

「…鳥ちゃんの事どう思ってるか…鳥ちゃんと同じ気持ちの好きかは、正直解らない…けど…」

俺は無言の侭、宮田さんの次の言葉を待つ。

「告白された時、嫌ではなかったよ」

曖昧でごめんね、と照れ笑う宮田さんに心臓を鷲掴みにされた様な気持ちになる。
こんなに、誰か一人に執着した事なんて無かった俺が、今は目の前の一人に翻弄され、それでも尚手に入れたいと思ってる。
…昔の女が聴いたら怒るな、絶対。

「じゃあ俺は脈ありって事ですね」
「そ、そういう事になるのかな…」

少し頬が赤らんでいる宮田さんの耳に顔を近付け、そっと囁く。

「必ず振り向かせてみせますから…」





▲end