■■ 君を手に入れたくて ■■





仕事以外で幸季に会う機会は余りないから、今日の収録は楽しみにしていたのだが。

「櫻井、ちょっと近いんじゃないのか?」
「森川さんこそ、少し寄り過ぎですよ」

よりによって、櫻井が一緒だとは。
先刻から、幸季を挟んで俺と櫻井は険悪な雰囲気になっている。
2人共顔は笑ってるが目が笑っていない。

「良いんですよ俺は。宮田さんと出番近いんですから」
「それとこの手は関係無いだろ」
「森川さんこそ、この手退けたらどうですか」

幸季の肩に回した俺の右手と、幸季の腰に回された櫻井の左手に互いに牽制をかけ合う。
櫻井が手に力を込めるから、幸季の体は俺達の間を行ったり来たりしている。
幸季は何でこんな事になってるのか解らないと言った顔で溜息をついた。

「はぁ…」
「宮田さん?具合でも悪いんですか?」
「お前がいるからじゃないのか?」
「それは森川さんの方ですよ」

幸季の零した溜息すら言い合いの種になる。
幸季は辺りを見回しているが、皆敢えて此方を見ない様にしていて誰とも一向に目が合わずにいる。
これ以上、俺と幸季の間に入ったらただじゃ済ませない…と俺が周りに視線を投げた所為だろうが。


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「あの、そろそろリハ始ま…」

すっかり周りの見えなくなった俺と森川さんに、静かだった宮田さんが恐る恐る話を切り出した。
仕事は仕事。
キッとお互いを睨みつけて仕事モードに切り替える。

俺と宮田さんのキャラが同じシーンに登場し、2人並んで撮り終わりOKが出た後、後ろに控えている森川さんに目線を送る。
森川さんは鋭く睨み返し、フ…と口元で笑った。
『上等だ』と言わんばかりに。
それは俺だって同じ事だ。
宮田さんは絶対渡さない。
例え森川さんを敵に回しても、だ。

入れ代わりで森川さんが前に出て、俺と宮田さんが後ろに下がる。

「余り調子に乗って幸季に触るなよ」

擦れ違い様の森川さんの言葉に先手を取られる。
悔しく思いながら宮田さんの横に腰掛けると、宮田さんは何も解らないと言う顔で不安気に此方を見上げた。
微笑んで、宮田さんの耳元で「何でも無いですから、心配しないで下さい」と囁くと、
まだ不満そうではあったがコクンと首を縦に振った。
全く…知らぬは本人ばかりなり、だ。
宮田さん自身が、俺と森川さんが宮田さんを巡ってる事に気付いていないんだから。


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収録が終わっても、森川さんと櫻井君は僕を挟んで言い合いをしている。

「幸季、この後予定あるか?」
「俺と何か食べに行きましょうよ」
「悪いな、幸季は俺と出掛けるんだ」
「宮田さんの都合を森川さんが決めないで下さい」
「それはお前にも言えるだろう」

このやり取りに付き合ってたら1日かかりそう…なんて思ったら急に可笑しくなって、思わず吹き出してしまった。
すると2人は言い合いを止め、不思議そうに此方を見た。
その息がまた妙に合っていて、笑いが止まらなくなってしまった。

「っあははは」
「宮田さん?」
「幸季?」

2人が怪訝な顔をして此方を覗き込むけど。

「2人共っおかし…っ!」

笑いが止まらない僕を2人は只呆然と見ている。

「ご、ごめ…なさ、僕この後、よて…あるっ…で」

くすくすと笑い続ける僕を2人はポカンと見ていたけど、僕に予定があると聞いた途端唖然とした表情をした。

「じゃあ僕これでっお疲れ様でしたっ」

踵を返すと、背中越しに2人の言い合いが小さく聞こえた。

結局2人が何で喧嘩してたのかは解らないけど、凄く面白かったし…。
また3人一緒の現場があると良いな…!





▲end