■■ エゴイズム ■■





狭いソファーに二人で座っていたら、宮田君が上半身を此方に向け、身を乗り出して来た。

「何でしないの?」
「何を?」
「キス」

そう言った宮田君の瞳は真っ直ぐ此方を捕らえて、視線が痛い。

「キス…ですか」
「そ、キス。…僕達、恋人なんじゃないの?」
「恋人です」
「じゃあ何で?」

真っ直ぐな宮田君の瞳が揺らぐ。

「滅多に会えないって言ったって…まだ一回もしてないよ」
「それは…その…」
「…僕の事、もう嫌いになった…?」

瞳を伏せ、俯いてしまう宮田君に胸が痛む。

「まさか!!」
「じゃあ…何で…?」

俯いたまま瞳だけ此方に向けられた所為で、宮田君は上目遣いの体勢で…。
目は潤んで、俺に無言の訴えをする。

「…言いますからその目やめて下さい」
「目…?」
「いや、何でもないです」

宮田君の頬に片手を添え、顔を此方へ向けさせる。

「…大切なんですよ」
「たいせつ?」
「真剣に愛してるから、大切にしたくて…」
「でも…」
「そうですね。不安にさせて済みません」
「ホントだよ、もぅ…」

素直に謝ったのに、唇を尖らせ拗ねる仕草が可愛くて。

「もどかしかった?」
「そっ…そういう訳じゃ…」

途端宮田君は、頬を赤らめ視線を逸らした。

「宮田君…」

宮田君が余りにも愛しくて、大切で大切で、壊したくなくて。
キス一つをするにもこんなにためらってしまう。

閉じられた瞳にそっと顔を寄せ、額に口付けを落とす。

「…おでこ?」
「不満ですか?」
「…それを僕に言わせるの?」

口にはしないけど、顔は不満でいっぱいの宮田君に少し申し訳なくなってしまう。
『大切にしたい』『壊したくない』と言うのは俺のエゴなのかもしれない。

「宮田君、もう一回、目閉じて」
「うん…」

素直に目を閉じる宮田君にまた顔を寄せる。
…初めて触れた唇は柔らかくて。

「ッ今…」
「ずっと待たせて、済みません」

微笑んで、小さな頭を胸に引き寄せる。

「愛してます」

胸に感じる小さな吐息に鼓動が高鳴る。

「僕も…大好き」





▲end