■■ 何処にも行かない ■■





テレビもつまらなくなって、風呂に入ろうと立ち上がろうとした途端、服の裾を掴まれた。

「何処行くの…ッ」

見上げる瞳は寂しげに揺れていて。
突然の行動に、少し戸惑った。

「風呂ですけど…」
「じゃあ僕もお風呂入る」

…多分、今俺は鳩が豆鉄砲食らった様な顔をしているに違いない。

「………宮田さん、今日は大胆」
「そっそういう意味じゃなくて…!!」

服を掴んでいる手に力が込められて、より引っ張られる。

「なんか……何処か遠くに行っちゃいそうで…」

予想してなかった言葉に俺はまた驚きを現わにした。

「俺が?」
「遠くへ?」
「宮田さんを置いて?」

俺の質問一つ一つに、宮田さんはこくこくと小さく首を縦に振る。

「無い無い、そんな事絶対」
「で、でも…そんな気がしたんだもん…」

笑い飛ばそうとしたら、存外宮田さんは深刻そうな顔をしたから、それも出来なくて。
宮田さんの隣に座り直して、肩を抱く。

「俺が宮田さん置いて何処か行くなんて、絶対無いから」

信じて、と耳にキスをする。

「うん…変な事言ってごめん…」

俯く宮田さんに、良く考えれば俺も愛されたもんだと一人嬉しくなってしまって。

「一緒に風呂、入りましょうか」
「…うんっ」

ぱっと咲いた大輪の向日葵みたいな笑顔に思わず時めいてしまった。





▲end